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2012.10.21     カテゴリ:  Duty-本編- 

   45話 彼の生きた証







 工場の扉が再び開いたのは、彼が出掛けてから3時間後のことだった。
 スーパーのビニール袋を持ち、表情はどことなく悲しそうな、苦しそうな、不安そうな表情だった。事務所の扉を閉め、彼が一旦背を向けると、彼の表情はいつも通りの顔に切り替わり、ヘラヘラとしていた。本当に一瞬の出来事過ぎて、私は見逃してしまった。
「セナ!遅いよ!」
「ごっめ~ん!スーパー混んでてさぁ」
「スーパーの他にも、どこか寄って来たんじゃないの?」
 ベッドの中からセナに言うと、彼は冷蔵庫に買ったものも入れずに、私のところへ近付いてきた。
 するとあろうことか、私の隣へと寝転びニヤニヤと笑い出した。
「……何?何で隣に来るの?」
「今度からさ、オレ、ベッドで寝てもいい?」
「あたしはどうすりゃいいんだよ。出て行けって?」
「だってオレ、もうソファーで寝るの窮屈過ぎて死にそうなんだもん」
 目を閉じて、まるで猫のように丸くなるセナを隣で見ていて、私は申し訳ないと少しだけ思った。
「理真ちゃんは今度から床で寝て」
「は!?床!?てかここ、床じゃなくてコンクリートでしょ!こんなところで寝られるか!」
「冗談だよ。理真ちゃんはベッドで寝てていいよ」
 ふにゃふにゃといつも以上に言葉がはっきりしないセナ。眠いのだろうか。
「……セナ?どうしたの?…大丈夫?」
「少し疲れたの……」
「情けないなぁ。アンドロイドでしょ?」
 解熱剤によって楽になっていた私は、彼に笑いかけながら囁いた。彼は閉じていた瞳を薄く開いて私を見ると、しばらく黙りこんだ。
「…セナ?」
「理真ちゃんはオレと出会って、生きる楽しさ……もう1度見つけられた?」
 突然の彼の問いに、私は目を見開いて彼を見つめ返した。その様子を見て、セナは私の隣で横になったまま微笑んだ。
「ずっと気がかりだったんだよね。オレは理真ちゃんの役に立てたのかなって。アンドロイドってことまで打ち明けて……本当にその必要があったのかなって」
「…何言ってるの……?あたしはセナがいなかったら死んでたよ!餓死か自殺かは分からないけど、セナがあたしに生きる楽しさ、教えてくれたんだよ!」
 私が再び生きる楽しさを見つけられたのではない。セナが私に生きる楽しさを教えてくれたのだ。人生は楽しいことばかりではない。けれど、生きてさえいれば、小さな幸せや楽しさに出会うことができる。その小さな幸せと楽しさに大きく喜び、そしてまた幸せと楽しさに出会うために歩き出す。人生はその繰り返しなのだ。
 セナはアンドロイドでありながら、それを身をもって私に教えてくれた。
「じゃあ…オレって、役に立った?」
「…あたしが今こうして、風邪をひいても楽しくやっていられるのはセナのおかげだよ」
「…よかった」
 彼は安心したように私の隣で、大きな息を1つついた。
「アンドロイドなんてものがいること、本当は知りたくなかったんじゃないかと思って」
「…そんなことないよ」
 実際、彼がアンドロイドだと聞いて愕然としたのは事実だ。しかし彼がアンドロイドだということを知らなかったら、私はここまで彼の教えを汲み取ることはできなかっただろう。
「役に立てて……本当によかった」
 彼が再び目を閉じて、小さく私にこう言った。


45-1



「1人の人間の人生を救えたんだ。……そう思えば、自分がアンドロイドであったことも許せる」
「……セナ?」
 こんなこと、普通ならセナは言わない。
「オレ…生きてる意味がまだあったんだ……」
「大袈裟だね。元カノも救ったのにさ」
「今回は場合が場合だったよ。理真ちゃんはオレの恩人だから」
 思い出すのは10年前、私が小さかった頃。私はもう彼の顔など思い出せなかったのに、彼は私の顔を覚えていてくれた。
「今オレがこうして笑顔を作れるのは、オレに人格をくれた理真ちゃんのおかげなのに、その理真ちゃんに対して、オレは不幸だなんて言っちゃいけないんだ。例え自分がアンドロイドで、その生い立ちに納得できなかったとしても、オレがアンドロイドでなければ、理真ちゃんを恩人だと思うことも…きっとなかった」
 互いに自分の人生に納得いかず、自分が不幸だと思い続けてきた。そうだったからこそ、私たちは互いに理解し合えたのかもしれない。互いに痛みを分け合えたのかもしれない。
「じゃ、セナはあたしの分身だったのかな」
「分身?」
「うん。いろいろ衝突した時もあったけど、こうしてお互いに楽しくリラックスして生活できたし……セナはあたしのこと、理解してくれるから」
「分身だなんて……オレはアンドロイドだよ?」
 力の抜けた笑みを零すセナを、私はじっと見つめていた。ふとした瞬間に、セナが私の左手首を掴んだ。
「えっ!?」
「…感覚……ここのリストカットしたラインのところ、感覚ないんだね?」
 思いもよらない不意打ちの質問で、私は彼から目を逸らした。
「……あの時は、ごめんね」
 セナが……謝った。
「セナのせいじゃないよ!だって、あたしが勝手に切ったんだもん!セナのナイフ、黙って持ち出して…あたしが勝手に…」
「でも、これからはやらないって、約束してくれる?」
 やはり今日のセナは何かが違う。
「これから理真ちゃんはどんどん大人になって、たくさん辛いことに遭うと思う。加害者のこと。自分の将来のこと……。だけど絶対にこんなことは2度としないって約束して?」
 そうだ。今の彼は無防備なのだ。本当の私と、本当の自分で向き合おうとしている。瞳が……今までにないほど真剣だ。
「オレはアンドロイドだから、生きてきた証なんてものは、何1つとして残せない。たった1人、ここまで本気で向き合えた人間は理真ちゃんだけなんだ。だからオレの生きてきた証は理真ちゃんそのもの。分身の理真ちゃんだけ……。絶対にオレから隠れて自分から命を絶とうとしたり、自分を傷つけるようなことはしたりしないで」
「うん。約束するよ」
「辛くなったら、ちゃんとオレに相談してよ?」
「うん。分かった」
 もう隠さない。彼に隠れて自分を傷つけるようなことはしない。……絶対に。
「今日の夕ご飯、何がいい?」
「おかゆってさっきあたし言ったよね?」
「あれ!?そうだったっけ!?」
「ちょっとセナ!」



 彼は安心していた。伝えるべきことは全て伝えた。これで書いた手紙を彼女の叔母に出すことができる。



……安心して彼女を手放すことができると……。



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プロフィール

 リンス 

Author: リンス 
リンスといいます☆


大学三年生です!
最近、就職についていろいろ悩み中です

小説「Duty」が完結し、これからどうするか考えています!

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