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2013.05.26     カテゴリ:  Duty-本編- 

   74話 幸せ






 血が止まることはなく、顔中を流れていく。もう止血をすることはできない。傷を治すことも。銃弾が脳の中枢を貫いたために、頭が働かないのだ。視界が砂嵐のように崩れそうになる。真っ暗になりそうになる。その度に恐怖が湧き上がってくる。
 柔らかい日差しが差し込んでいることに気付き、足を投げ出して座っている床に、そっと目をやる。粉々に散り落ちたガラスの破片が、西日を受けて水面のように輝いていた。大理石の床は確かに黒ずんではいたが、彼にははっきり美しく見えた。視界が暗くなりながらも、それだけは捉えられたのだ。
 水面。どこかで見たことのある、水面。河川敷だ。忘れるはずがない。10年前、君と出会った河川敷。そこを流れる大きな川。ぼんやりと大理石から10年前の懐かしい景色へと変化していく。言葉を発することもできなかった。座っている感覚は硬い大理石の上であるのに、目の前だけがあの河川敷へと変わっていく。
 ピントが合いはじめ、オレンジと紫の水彩画のような大空が見えてくる。あの時と同じ景色だ。全く同じだ。
 ふと目の前にすうっと空気のように現れた、髪を二つに結い、赤いランドセルを背負った少女。オレを見て、満面の笑みを浮かべていた。
 目を見開いて、目の前の少女を凝視する。
「…理真ちゃん……」




74-1






 オレがそう口にすると、少女はこくりと深く頷いた。
 あぁ……何となく分かった。
「どうして?何で……こんないたずらするの?」
 これはオレの記憶から作り出した、オレの勝手な想像だ。記憶を映像のように見ることは何度かあった。眠る前や眠れない時、鮮明に思い出して、幸せな気持ちになるために。しかしその映像は過去の出来事だけを繰り返すだけで、オレは第三者の視点でそれを見ていた。今の自分が入り込んで会話をするなど有り得なかった。完全な「夢」の状態に陥ったことは一度もなかったのだ。
 何度願ってきただろう。映像のように思い出すだけではなく、夢のように過去に入り込みたいと願ったのは……。
「……遅いよ…オレは10年間…待ってたのにさ……」
 唇も思い通りに動かない。もう……残された時間は僅かだ。
「理真ちゃん……」
 幼い理真の髪、頬に触れようとしても、もう腕が上がらない。そんなセナの様子を見て、理真は困ったような顔をする。
「オレは……幸せだったよ。理真ちゃんのこと、ずっと想っていられて……命を吹き込んでもらえて…だから理真ちゃんも幸せになってね……」
 そう言ってセナは理真から学んだ微笑みを浮かべると、目の前の理真が涙を一粒零した。涙は西日に当たり、ダイヤモンドのようにキラキラと輝く。
「な……泣かないで……。ね?」
 10年前と同じ言葉を口にしていた。
「理真ちゃんは、笑顔が…一番…だよ」
 目の前の幼い少女が悲しそうな顔をしている。その時だった。理真の顔がみるみるうちに成長していった。セナの知らない、理真の10年間の成長。全てをセナに見せるかのように、理真は成長していく。身長が伸びていく。ぷっくりした頬が消えていく。身体がふくよかになっていく。そして伸びたと思った長くて美しい髪が短くなり、今の理真へと落ち着いた。
 思わず見とれた。西日より、この空より美しいと思った。綺麗だと思った。
「ありがとう」
 力なく、高校生になった理真に囁いた。自分の知らない、理真の成長を見られたことが嬉しかった。成長過程で長かった髪がいきなり短くなったのは、きっと両親が亡くなった時期だったからだろう。
 理真は制服の薄いピンクのブラウスとスカート姿で立っていた。セナの言葉にこくりと頷き、笑顔を向けた。
「理真ちゃん……。オレはずっと、そばにいるからね」
 時間がないと、心が騒ぐ。この理真が自分の創り出した想像や夢だとしても、必ず伝えておきたかった。
「理真ちゃんのお父さんと、お母さんと一緒に……オレは理真ちゃんのそばにいるからね」
 悲しそうに眉を下げ、理真の瞳から涙が溢れる。涙が揺れ、瞳が光る。
「だから……安心して」
 瞼までも重くなっていた。目を閉じてしまいそうになる。
 政府No.1のデューティは死んだ。これで彼女を狙う大きな存在は消えた。オレは、義務を果たせたのだ。デューティが死んだ以上、半永久的に彼女を狙うアンドロイドはいなくなるだろう。デューティを殺したオレが、彼女のそばにいたという事実が存在する限り、デストロイドのオレを大きく突き動かした人間として、他のアンドロイドは彼女の存在を恐れて近付くことはできない。また、政府No.1が消えたということは、政府は右腕を失ったということになる。政府もしばらくの間は身動きがとれないだろう。
 彼女に微笑んで、静かに目を閉じようとした時だった。彼女の方から、一歩ずつオレに近付いてきたのだ。徐々に近付く足音に、俯きかけていた顔を上げ、自分を見下ろす彼女を見上げる。
 首の後ろに両手を回され、理真の胸にそっと抱かれた。思ってもいなかったことに、重くなった瞼を跳ね退けて、目を見開いた。
 柔らかいベールに包まれたかのように、心地が良い。優しくて、どこか懐かしい匂いがする。温かい。





幸せだ。







 いくら望んでも、現実では叶わなかったことが、今、最期に叶った。
 視界がぼやけてきた。そして頬を何かが伝い落ちた。アンドロイドからは流れ出すことのない、涙だった。幸せすぎて、悲しくて、たくさんの思いが溢れて流れ出した。人間になれた気がした。涙を流すという行為ができたことによって、人間になれた。そう思ったのだ。
 いつの間にか、どろどろと湧き出てくるような死の恐怖は消えていた。



「理真ちゃん……」
 理真の胸元で、ゆっくり愛しい彼女の名前を呼ぶ。彼女は返事の代わりに、抱きしめているオレの茶色い髪を優しく撫でた。夢かもしれない、想像かもしれないと分かりつつ、もう一度触れてほしくて、彼女の胸元に擦り寄り、彼女の名前を呼ぶ。







74-2
















「理真ちゃん」

































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プロフィール

 リンス 

Author: リンス 
リンスといいます☆


大学三年生です!
最近、就職についていろいろ悩み中です

小説「Duty」が完結し、これからどうするか考えています!

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