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最新話→77話 生命と命←NEW! リンスのつぶやき→は、は、は…春休み!


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カテゴリー 《 Duty-本編- 》   全17ページ

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2015.02.26     カテゴリ:  Duty-本編- 

   最終話 Duty


 冷たい風が吹き渡る河川敷で、私は静かに芝生の上に座り、眼下の大きな川を見つめていた。
 一人で新鮮な空気を吸いに行くと言ったら、夏美もハチコウも心配していたが何とか説得した。水面が西日を反射させ輝いている。空はオレンジと紫のグラデーションの夕焼けが広がっていた。

目を閉じ、大きく空気を吸う。

 ここは私とセナが10年前に初めて出会った河川敷だ。彼は6歳の私とここで共に遊び、私によって人格が形成された。彼と私の強い結びつきの原点だ。

 どうしてここに来ようと思ったのか……。
 川の向こう岸は大きなビルが立ち並ぶ都心へと繋がっている。そのビルまでもがオレンジの光に包まれていた。
「セナ……」
 彼の名前を読んでみる。呼んでいなければ、彼が過去の人になってしまいそうな気がした。
「セナ……」
 彼に合った綺麗な名前だ。呼んだだけで彼の笑顔が浮かんでくる。
 ハチコウはセナが再び作られる可能性もあると言っていた。しかし、そう思っても彼の存在がすべて消えてしまった今は、悲しくて悲しくて耐えられない。
「セナ……」
 膝を抱えて涙を流す。辛い。セナがいない日常を送れるはずがない。
世界は残酷だ。不幸を平等に与えない。苦しむ人はいつも決まっていた。私は世の中の不条理を知りすぎた。だからといって、悔いたから元に戻れるというわけではない。
 ここで終わるのだ。この綺麗な夕陽が沈んだら、私とセナの思い出は過去のものになり、私はこの世界と向き合いながら生きて行かなければならない。父と母の死に、セナの死に、向き合わなければいけない。けれどセナと過ごした日々によって、私は確かに強くなれた。私は生きなければならない。何があっても生き続けることが、私の義務なのだ。




79-1







 冷たい風が吹き渡る河川敷で、ランドセルを芝生の上に投げ捨てて、オレと君は夢中で遊んでいた。しかし日は西へ傾いて夕陽へと変わり、空はオレンジと紫のグラデーションへと移り変わっていく。もうすぐ夜がくる。
「ねぇ、もう帰りな」
 切り出したくない話を自分から切り出した。
「やだ! まだ遊ぶ!」
「でも、もう夜になっちゃうよ? お父さんもお母さんも心配するよ?」
「嫌だ! まだお兄ちゃんと遊ぶ!」
 君は背を向けて一人で遊び始める。
「……ね? 家まで送ってあげるから……ね?」
「じゃ、たかいたかいして」
「え?」
 突然の要求に目を点にする。
「パパ、もうあたしが重いからできないって言うの。だからお兄ちゃんやってよ!」
「たかいたかい?」
 君は小さな両手を向けて、抱っこしてと促してくる。戸惑いながら震える手で君の両脇に手を入れる。まだ幼い君の身体の中に、どれだけの未来が詰まっているんだろう。そう思いながら持ち上げた。
「わっ! すごーい!!」
 大きく喜ぶ君を見て、もっと高く上げてあげようと心が働く。もっと喜んでもらおうと努力する。君の笑顔を見て、伝染するように笑みがこぼれる。
「すごーい! たかいよ!」
 二つに結った綺麗な髪が揺れる。喜んで笑う君を見て、君が……君のことが大好きになった。
 冷たい風が吹き、はっと我に返って君を静かに地面へと下ろした。
「ほら、帰ろう?」
「うん!」
 ランドセルを背負った君を確認して、河川敷から歩き出す。すると右手に温かいものが入り込んできた。自分の手に視線を落とすと、君の小さな手が滑りこんでいて、隣には君の笑顔があった。
「手! 繋ぐの!」
 機嫌がよくなった君は、嬉しそうにオレの手を握りしめながら笑っていた。



 君を家へと送り届けて、再び君と遊んだ河川敷を歩いていた。夕陽はビルとビルの谷間へと隠れつつも、まだ美しい光を放っていた。ポケットに手を入れ、猫背で歩いていた背中を伸ばす。目を閉じて深く息を吸い、大きく吐き出す。
 社会も捨てたものじゃないと思った。だってあんなに純粋な子がいるじゃないか。この世界はもっともっときれいになれる。空を見上げて再び目を閉じ、にっこりと笑った。






君に出会えてよかった。







次はいつ会えるかな?









明日はどんな素敵なことがあるんだろう。

79-2







 そう思いながら、彼は夕日へと向かって歩いて行った。彼の人生に多くの災難が襲い掛かること。また、たくさんの幸せが訪れること。そして、彼女と10年後に再会することなど、知りもしないまま。





Duty










END












長い間、小説『Duty』を読んでいただき、本当にありがとうございました。
原稿を完結させてから、みなさんにお見せするまでに、2年もの月日がかかってしまいました。

『Duty』の投稿を開始してから3年。
この小説を通して、たくさんの方々に出会いました。
また、生活の中での悩みや相談にのってくださり、私はこの小説を通してみなさんと繋がることで、大きく成長することができました。



本当にありがとうございました。



今、正直とても厳しい環境に置かれています。
ですが、皮肉なことに、厳しい環境下の中にいる今、
創作意欲は戻りつつあります。


現在、日常生活を送ることさえも困難な状況にありますが、
また、信じることのできる人々に出会い、新しい人間関係を構築していければいいな…と思っております。


再び創作することで、少しでも苦しみを和らげながら
これからも頑張っていきたいと思っています。

読者の皆様、本当に、本当に、ありがとうございました。





byリンス











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2015.02.08     カテゴリ:  Duty-本編- 

   78話 一番必要なもの




 エントランスを歩いていると面白いものを見つけた。デューティの消息が途絶えたビルへと入った時、自分が5年ほど前に製造したCodeというアンドロイドを見つけたのだ。Codeは戦闘面を重視して造ったつもりだったのだが、身体の構造が原因で戦闘能力を十分に発揮することができず、結果的に欠陥品となった。自分でリコールをかけ、政府へと戻ってきたアンドロイドは焼却炉で処分した。リコールに応じなかったアンドロイドは、デューティなどの政府所属のアンドロイドを使って破壊した。
 まさか、Codeがまだ残っていたとは思ってもいなかった。そのCodeの隣にいた学生はデストロイドの人格形成者だった。デューティの眼球を通してみた彼女の姿や写真と一致していた。デストロイドの人格を作った彼女にも興味が湧く。しかし今はそれどころではない。Codeと彼女の先にいるデストロイドたちの元へと行くことが最優先なのだ。

 エントランスの中央にデューティが倒れていた。目は開いたまま、頭部には血が広がっていた。その場に立ち止り、見下ろす。
「お前、余計なことをしてくれたな」
 殺さずに連れてくるよう命令を出した。最期の大事な局面で命令を無視し、力比べをするとは製作者として恥ずかしい。そんなアンドロイドにやる名などない。
「Duty」
 壁に寄りかかって死んでいるデストロイドへと、目を向けた。
「お前は馬鹿だ。たった一人の人間のために、お前はそこまで必死になったのか」
見つめたまま呟いた。
「哀れだな」

78-1




 冷たい布団の中で泣き続けた。現実を受け入れられず、まだ「夢だったのでは?」という考えが消えない。これからどうやって生きていけばいいのか、何も分からない。ハチコウはセナの書斎に座っていた。私には何も声をかけず、私と同じようにセナが死んでしまったという事実を必死に受け止めようとしているように見えた。
 突然工場の錆びついた扉が開いた。ハチコウは目を見開いて椅子から立ち上がり、自分の隠し持っているナイフに手をかけた。しかし、工場へと入ってきたのは、髪の長い私と同じ制服を着た夏美だった。
「お前……」
 ハチコウが夏美を睨みつけた。こんな時に来られて困るのはもちろん、セナの不在の説明を余儀なくされると思ったのだろう。
 夏美は大きな瞳を少し細めて私を見つめ、そしてハチコウへと目をやった。
「……セナは?」
 私の涙で濡れた顔を見て、辛うじて冷静さを保っているのはハチコウだと判断したようだった。ハチコウは嫌がるように目を逸らし、そして聞こえないような小さな声で言った。
「死んだ……」
 何も言わず、彼女はどこを見るともなく宙を向いて茫然としていた。ハチコウもただベッドで泣いている私へと目を向け、口を閉ざしていた。
「知ってたよ。あんたもセナも、人間じゃないって……」
 開いた夏美の口から出てきた言葉に、私もハチコウも驚いた。
「どうしてだよ……」
 信じられないというように眉間に皺をよせたハチコウに、彼女は大きく息を吸ってこう答えた。
「セナから全部聞いた。あたしあいつに頼まれたの。もしものことがあったら、後のことはよろしくって」
「セナにか……?」
 こくりと夏美は頷いた。私はセナから何も聞いていなかったため、驚いた。おそらくハチコウも聞いていなかったのだろう。夏美にだけ、セナは話したのだ。
 夏美はベットにいる私へと近づいてきて、優しい口調で言った。
「セナからの伝言、預かってるの。聞いて?」
 私はおそるおそる頷き、泣きはらした目で夏美の大きな瞳を見つめた。ハチコウも静かに聞き取ろうとしているため、工場の事務所内が静けさに包まれる。その中を夏美の鈴のような声が響き渡った。
「出会ってくれてありがとうって」
 私は唇を震わせた。この言葉は本来、私が言うべきではなかったのか? 両親が死んで孤独になりつつあった私を助けてくれたセナは、恩人のはずだったのに、私は感謝の言葉一つ言えずセナを手放してしまった。やはり、あのビルのエントランスにセナを残しておくべきではなかったのだ。
「理真」
 夏美も涙を流していた。ベットに腰掛けると、私を力強く抱きしめた。
「あいつは本当に理真を大切に思ってたんだよ。だから、理真はセナに大切にされてたこと、忘れちゃいけないんだよ。あいつが理真を思ってたくらい、自分のことを大切にしていかなきゃ、きっとダメなんだよ。それに言ってた。あいつ、理真は強いって。もうオレがいなくても大丈夫って」
「大丈夫じゃない……セナがいなきゃ、何もできない……」
 セナの顔がぼんやりと浮かんでくる。なんで? さっきまで話していて、そこにいたのに。
「ううん。理真は強いよ。大丈夫。あたしもハチコウもいるから。今は立ち止って、動けないかもしれないけれど、きっとまた歩き出せるよ」
 ハチコウが目を細めながら、私を後押しするかのように言った。
「セナとは、しばらく別れるだけだ。もしかしたら将来、セナの価値を理解した人間がセナを作り直す可能性だってある」
「それ、本当なの?」
 作り直されるかもしれないというハチコウの話を聞いて、私はベッドから乗り出してハチコウに尋ねた。
「あぁ。その時一番必要なのは何だか分かるか?」
 私は首を傾げた。製造者? 設計図? どちらも必要だと思うのだが。
「一番必要なのはお前だよ」
「……あたし?」
「外側だけ作られても、それはただの人形だ。命をお前が吹き込んでやらないと。お前はセナの人格を作ったんだから。それにセナが戻ってきてお前がいなかったらどうする? それこそあいつは正気を失って暴走だ。『理真ちゃん理真ちゃん』って言ってそこら中這いずりまわるぞ」
 それを聞いて私も夏美も泣きながら笑い出した。ハチコウは私たちを笑わせようと言ったのだと思う。まだ笑う気持ちには到底なれない。けれど、今笑っていなかったら一生笑えなくなってしまいそうな気がした。
「ハチコウ……何言って……」
 だがやはり笑みは持続しない。笑顔が崩れ、涙がぼろぼろと零れていってしまう。
「今は泣いてもいい。だけど、セナは長い間お前に泣いてもらうことを望んでいるわけじゃない」
 深く頷いた。分かっている。セナは私が泣くことを絶対望まない。
 ふと気づいた。まだ彼との繋がりや絆は生きていると。私が忘れない限り、セナは変わらないと。




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2014.03.02     カテゴリ:  Duty-本編- 

   77話 生命と命


 途端にハチコウは、理真の腕を捻り上げるように強くつかんだ。早くここから立ち去らなければと、頭がとっさに判断した。フジオカの輝きのない細い目は、真っすぐハチコウに向いている。底知れない恐怖が彼を襲っていた。
 ハチコウは欠陥品だ。脳の戦闘関連の機能が正常に作動しない欠陥を持った、アンドロイドの型版だった。それ以外に彼の欠陥は存在しなかったが、彼の型版にリコールがかけられた。リコールで戻って来なかったアンドロイドは、三流アンドロイドの情報提供をもとに根絶やしにされた。ハチコウはセナに殺されたということで、破壊届、つまり破壊完了とされていた。それはハチコウとセナが政府を欺くために綿密に仕組んだことで成功した。しかし、ハチコウの目の前には今、製造者のフジオカがいる。
 自分が製造し、リコールをかけたアンドロイドが、なぜまだ社会に存在しているのか。フジオカは疑問に思うはずだ。それと同時に、ハチコウを処分しなければと思うに違いない。
 急いでここから立ち去らなければ。殺される。
「理真! 立て!」
「やだ!」
 半ばパニックになっている理真の腕を、アンドロイドの力で思い切り引く。
「やだ!!!」
 理真が嫌がる間にも、フジオカは一歩一歩近付いてくる。
「いいから立て!!」
 理真が呆然として、力を抜いた隙に彼女を引っ張り、逃げようとする。しかしこのビルには入口が一つしか見当たらない。このビルから立ち去りたいハチコウと、ビルの中に入って来たフジオカ。必然的に顔を合わせなければいけない。
 すれ違い隙間に頭を銃で射抜かれるかもしれない。狙撃銃で離れたところから撃たれるかもしれない。力加減など考えずに、理真の腕を握り締めた。
「やめて! ハチコウ!」
 握り締められる腕の痛みと、ここから立ち去ろうとするハチコウの決意に、理真の顔は涙で濡れていた。だがハチコウは今、それどころではない。そんなことに関わっている暇などない。自分の命が危ういのだ。
「嫌だ!!!」
 理真の腕を握り潰そうとするハチコウの力に、理真は耐えきれず彼の背中を思い切り叩いた。
 確実に近付いてくるフジオカに、ハチコウは瞬きを止めた。目を見開いたまま、待ち構える。怯えないよう。落ち着いて。



77-1




 すれ違った。ただそれだけだった。フジオカはハチコウを無視するように、ただ脇を歩いて行った。一度も目を合わせることはなかった。ハチコウはそのまま理真を連れてビルの外へ出た。

 見向きもされなかったことが、しばらく信じられなかった。ビルの外から出てもなお、フジオカの連れとして来た、大勢の男たちに警戒はしていたが、彼らは何の行動を起こすこともなかった。ただのボディーガードだったようだ。
 なぜフジオカは一目見ることもなく、通り過ぎていったのだろうと、ハチコウはビルの入口にたたずんで考えた。まさか自分が製造したアンドロイドの型版を忘れてしまったのだろうか。そんなことはないはずだ。……興味すら感じなかったのだろうか?
 ただ、助かってよかったと、全身に入れていた力を抜いた。
「……ハチコウ」
 すすり泣く声と共に聞こえてきた理真の声に、現実へと引き戻された。そして間もなく、自分が理真の腕をものすごい力で掴んでいたことに気付き、とっさに理真の腕を離した。「大丈夫か?」とも言えなかった。理真が自分を、睨んでいたのだ。自分が掴んでいた方の腕を抱えながら、涙の溢れる瞳でこちらを見ている。まるで、咎めるかのように。
 はっとした。自分は先程、自分の生命が危うということしか考えていなかった。自分はアンドロイド。死んだとしても仕方ない。それなのに自分のことを考え、理真のことが頭から抜け落ちていた。
 驚いた。5年間、セナや他の人間たちと関わって、少しはアンドロイドのあるべき姿というものを学んだはずなのに、自分の命のことしか考えていなかった。この5年間で、自分自身は大きく成長したと思っていた。しかし根本は変わっていなかった。アンドロイドの軽い生命に目をやり、人間の重い命が思考から消えていた。理真に構わず、自分の生命のことを全力で考えていたことに、激しく後悔した。




ぜぇっはぁ……

イラストをしばらく描いていなかったせいか、
腕がなまってしまって、

絵を描くのに時間がかかる!!!!

遅くなってしまって、
申し訳ありません……



セナがいなくなってしまったのに、


ハチコウとリマの間には、大きな亀裂が入ってしまいました……


もしセナがいたら、二人の関係を修復してくれましたが、
もう彼はいません。


二人は一体どうなるのか……







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2014.01.31     カテゴリ:  Duty-本編- 

   76話 翻弄




 ビルの中は、野次馬の中で見た時と同じく、大理石は黒ずみ、ガラスの破片が散乱していた。そして夕日の優しい光りが差し込んでいて、散乱しているガラスはきらきらと水面のように光っていた。
「セナ!」
 壁に寄りかかっているセナへと向かって、大声で叫んだ。ローファーの底から、ガラスを踏みしめる音が聞こえてくるだけで、セナは返事をしない。
「セナ!!!」
 セナへと駆け寄って行く。その時、床に倒れた物体が目に入り、私は思わず固まった。それは先程私を騙し、セナのふりをしていた政府のアンドロイドだった。額には銃弾が貫かれたような跡があり、そこから血が流れ出している。目は開いたままだった。
 怖くなって、自分の着ている制服の赤いリボンを右手でぎゅっとつかみ、静かにセナへと歩み出した。セナは政府のアンドロイドを壊したのだと、この状況を見て理解できた。
「セナ、早く帰ろうよ」
 壁に寄りかかって俯いているセナの正面へと来て、彼の様子がおかしいことに気がついた。
「せ……な」
 彼は身体中血だらけだった。それが返り血なのか、自らの血なのか、分からないほどに。頬には無数の切り傷があり、すすで汚れ、額からは血が流れていた。床には這いつくばったような血痕もある。
「……セナ?」
 もう一度彼の名前を呼ぶが、彼は何の反応も示さない。
「セナ!!!」
 涙が溢れてくる。私はなぜ泣いているのだ? セナは、死んでないのに。死ぬはずがない。だって彼はアンドロイドなのだから。
 彼の腕がだらりと力なく、彼の身体から大理石の上に零れ落ちた。


76-2



 言葉が出なかった。ただ、ただ分かるのは、目の前にいる彼が、もう既に、生きてはいないということだけ……。
「おい! 君、入るな!」
 ビルの入口で、ついにハチコウは警察官を押し退けて、ビルの中へと入って来た。それに続こうと、他の野次馬たちが一気に中を覗こうとする。警察官はハチコウを目で追うだけで、追い駆けては来なかった。
「理真!!!」
 エントランスを横切り、私の隣へと全速力で走って来たハチコウは、私がセナの隣で固まっていることに気づいた。ハチコウもセナも、同じアンドロイドだ。セナが生きてはいないことなど、すぐに分かっただろう。しかしハチコウもまた、言葉を失っているようだった。
 夕日がセナの茶色い髪を明るく照らし、ビルの中へと入り込んできた風は、彼の髪を優しく揺らした。
 信じられない。だって、さっきまで私と一緒に話していたではないか。昨日まで私と一緒に……。
「行くぞ理真」
 ハチコウはセナの隣いる私の腕を強引につかみ、信じられないことを口にした。
「ここから出るぞ」
 なぜそんなことが言えるのか。セナを、置いて行くというのか?
「セナ……セナは?」
「もう死んでる」
「違うよ。死んでなんかないよ」
 涙がぽろぽろと流れだす。もう耐えられないと言うように表情が崩れ、声を上げて泣きながら、ハチコウに叫んだ。
「セナも連れて行く。セナは死んでなんかない!」
 アンドロイドなのだから、死ぬはずがない。だって、セナは私に傷が癒えるところを見せてくれた。彼の頬の傷も、額の傷も、もうすぐ塞がる。そう信じて疑わないはずなのに、なぜ私は泣いているのか。
 涙で溢れた私の目には、ハチコウの表情を捉えることはできなかったが、彼の私をつかむ手に力が入ったことで、彼がどんな表情をしているのか、なんとなく想像できた。
「セナは死んだんだよ!アンドロイドは、死んだら元には戻らないんだよ!」
 死んだらもう元には戻らない。その言葉が頭の中を何度も駆け巡る。
 セナがいなくなったら……私はもう。
「セナがいなくなったら、もう……生きていけないよ」
 ハチコウの手を振り払おうと、必死にもがくが、ハチコウは私を離さない。
「やだ! いやだ!!」
 自分でも聞いたことのない悲鳴が、エントランスの中に響き渡る。
「理真!!!」
 もう何が何だか分からない。どうしてセナが死んでしまったのだ?絶対に死んだりしたいと思っていた、あのセナが……。
 どうしてみんな死んでしまうのだ? お父さんも、お母さんも……セナも。
 冷たいガラスの破片が散乱している床に、私は座り込んだ。もうどうすればいいのか分からない。セナがいなくなってしまった今、私はどうすればいいのだ?
「理真! 立て! 急いでここから出るぞ!」
「……ここにいる」
 うなだれて、静かに言った。
「何言ってんだ! 見ろ! 政府のアンドロイドが死んでる! こいつは政府No.1だ! いずれあの人が来る!!!」
 少し離れたエントランスの中心辺りに横たわっている、セナと同型のアンドロイドを指差して、ハチコウは私に叫んだ。けれど私にはハチコウの言う、“あの人”が誰なのか分からない。どんな“あの人”でも、今の私にとってセナ以上の人はいない。
「行かない……」
「お前の目の前で死んでるのは、人間じゃない。……アンドロイドなんだよ」
 ハチコウは私の頭上から、冷たく言い放った。
「人間のお前は、ただの人工的に造られた物体の死に、翻弄されちゃいけない」
 その言葉に驚いて、静かにハチコウを見上げた。ハチコウの表情は怒っているようにも、悲しんでいるようにも見て取れた。


76-1




「オレたちアンドロイドは、本当は生きても死んでもいない。ただ始動して、停止しただけ。オレたちの死なんて、軽いものなんだよ。そんなものに、騙されるな」
 ハチコウはそれ以上、何も言わなかった。ただ私から視線を逸らして、眉間に皺を寄せ、唇を噛んでいるだけだった。ふとビルの入口から、大勢の男たちが入って来た。簡単に入って来ることはできないはずの、このビル内に、どうしていとも簡単に入ることができたのか。大勢の男たちの中心には、背広を着た、青白い顔の若い男が立っていた。彼らに取り囲まれるように、男たちの中にいる。しかし青白い顔をした男だけがこちらへと向かって来た。その男にハチコウが気付いた瞬間、ハチコウは目を見開いて固まった。
 青白い顔の男は、彼らアンドロイドの製造者・フジオカだった。






みなさん、お待たせいたしました

「Duty」復活です。


理真を、最後まで見届けてやってください


私も最後まで、頑張ります!



   Byリンス





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2013.06.02     カテゴリ:  Duty-本編- 

   75話 通せんぼ



 辛うじて走っていた私の足が、ぽっきり折れてしまったような気がした。上半身が悪寒に襲われ、思わず大通りの歩道に膝を抱えて座り込んだ。
「お、おい! 大丈夫か!?」
 私のすぐ前方を走っていたハチコウが、座り込んだ私に驚いて引き返してきた。
「お前……顔が真っ青だぞ。……気持ち悪いのか?」
 口を僅かに開き、その隙間から空気を吸う。目眩と吐き気がして、ハチコウの問いに頷くこともきでなかった。セナがいるビルの周りには、ビルからの避難者や野次馬でごった返してしまい、ハチコウはやむなく横付けしていた車を近くの有料駐車場に止めた。ハチコウと2人で駐車場からセナが残っているビルに向かっている途中、私は気持ちが悪くなったのだ。
「頑張れ。あと少しだ」
 ハチコウが私の手を引く。自分の力では立ち上がれず、ハチコウに引っ張り上げてもらって、やっと立ち上がった。
「ゆっくりでいい。走るのはやめよう」
 そう言って、ハチコウは私の手を離した。ハチコウの大きな瞳は、なぜかいつもより大きく見えて、瞳孔が開ききっているような気がした。
 静かに頷いて、一歩一歩、歩き出す。たった200メートルほどの距離が、ものすごく遠いように感じ、まるで永遠に終わることのない旅をしているようだった。

 ビルの前には、何十人もの人が集まっていた。先程、車内から見ていた時よりも、一段と野次馬が増えている。ただでさえ気持ちが悪いのに、次は人の数に酔う。自分の目が勝手に人から人へと目移りしていく。ビルの向かいにある道路には、パトカーが5、6台止まっており、階段を上がったビルの入口の付近に2人の警察官と1人の警備員が話をしていた。
「黒いジャンバーを着た茶髪の男が、突然銃を手にして入って来たんです。僕は人質にされて、死にたくなかったらここから出ろと、エントランスで銃を天井に向けて撃って、そう言ったんです。それで……」
 その後は聞こえなかった。黒いジャンバー……きっとセナのことだ。死にたくなかったらここから出ろ。セナが本当にそんなことを言ったのか?セナが人間を傷つけるようなアンドロイドではないことくらい、私は知っている。もしかして、私を助けるために……?
 ただただ、ビルの前で立ち尽くす。何が起きているのか……まだ夢のようで、身体がフワフワとしている。
「おい! 理真! 本当に大丈夫か?」
 ハチコウがぼうっとしていた私を心配して振り返った。
「警察がいる……。くそ……」
 ハチコウはそのまま人の多いビルの入口へと人をかき分けて入って行く。
「理真!お前もこっちに来い!」
 人間に揉みくちゃにされながら、ハチコウは私へと振り返って叫ぶ。「そんなところになんて、行けないよ」と返事をすることもできなかった。胃がきりきりして、気持ち悪さが増していく。
「……早く!」
 私の体調が徐々に悪化していることを感じつつ、ハチコウは困ったように私を急かす。最後の力を振り絞るようにして、私は人混みの中に飛び込んだ。怒りをも込めるように、他人の身体を押し退ける。グリーンのパーカーを着たハチコウの背中を追う。必死に。狂ったように。
 やっとのこと人混みの最前列まで来た。しかし何人もの警察官が両手を大きく広げ、ビルの中に入ることができないよう、通せんぼしている。
 ハチコウはそんなことに構いもせず、目の前にいる人間が警察官だというのに、今まで通り一般人を押し退けるようにして、警察官の肩に手を乗せた。
「駄目だ! ここは立ち入り禁止だ!」
「あぁ!? 仲間が中にいるんだよ!」
 ハチコウの背中を見つめながら、私は警察官とハチコウの会話を聞いていた。
「政府の要人がいらっしゃる! だからここは立ち入り禁止だ!」
 政府の要人?要人がなぜこんな事件が勃発している危険なビルに来るのだ?しかも突然。
 ふとそんなことを考え始めようとした時、後ろから強い力で背中を押され、ハチコウにぶつかった。
「理真? おい、大丈夫か!?」
 頭がぼうっとして、視界がところどころ暗くなる。顔面が麻痺する。自分がどこを向いているのか分からない。そうだ。あの感覚に似ている。お父さんとお母さんが事故に遭ったことを知らされ、美華子叔母さんの旦那さんの車に乗って病院に向かっていた時。あの時の私の目は、沢山のものを見ていたが、脳は何一つ見えてはいなかった。今もそうだ。目が得る大量の情報は、何一つ脳には伝わっていない。
「こっちだ!」
 ハチコウに再び手を引かれ。ハチコウの隣へと狭い中移動する。
「いいから入れてくれ! 中にまだ人が残ってるんだよ!」
「もう残っていない! さっさと帰りなさい!」
 中年の警察官がハチコウに向かって怒鳴りつける。私の死んだ瞳は自然とビルの入口へとさまよう。
 誰も残っていないはずがない。セナはまだビルの中に残っているのだ。
「ちょっと待ってくれよ! 頼むから入れてくれ!」
 ついにハチコウと警察官はつかみ合いになってしまった。その光景に焦りを感じた私の視界に、あるものが入った。警察官の身体で今まで見えなかったビルのエントランスが、ハチコウがつかみかかったことによって見えたのだ。先程私が見たエントランスとは思えないほど、ビルの1階は荒れ果てていた。大理石は黒ずみ、ガラスの破片が散乱していた。そのエントランスの左側の突き当たり、ちょうど壁の真ん中に、黒いジャンバーを着たセナが寄りかかっているのが見えた。
 心臓が大きく跳ね上がり、突然目が覚めたかのように頭の中がはっきりとした。
「セナ!!!」
 大声で彼の名前を叫ぶ。すると隣で警察官をつかんでいたハチコウが私へと顔を向けて、唖然とした。きっとハチコウの力が緩んだのだろう。警察官はその隙にハチコウを人混みの中へと押し込んだ。
「君! 公務執行妨害だぞ!」
 私はハチコウに気を取られている警察官の脇を通って、ビルの中へと侵入しようとした。しかしそれに警察官は気付き、私の前に大きな腕を広げた。通せんぼする中年の警察官を見上げ、私は思い切り睨みつけた。力ずくでも警察官を押し退けてやると、警察官の身体に体当たりをする。
「理真! 何やってんだ!!」
 私より後方へ下がってしまったハチコウは、必死に私の手をつかもうと、人混みの中から手を伸ばしていた。そんなことに構ってはいられない。セナがすぐそこにいるのだ。
 ビルの中に入りたかった私は、あることを思いついた。私は人混みの中で屈み込み、警察官の足元から抜け出した。
「ちょっと君!」
 足元から潜り抜けた私に、警察官は目を見開いて捕まえようとする。しかしハチコウが私を追おうとして人混みの中から再び前へと出て来て、警察官はそちらの対応に追われた。
 ビルの中へと向かう。
「理真! 1人で行くな!!」
 ハチコウの声が遠くで聞こえてきたが、私は止まらなかった。



74-1










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プロフィール

 リンス 

Author: リンス 
リンスといいます☆


大学三年生です!
最近、就職についていろいろ悩み中です

小説「Duty」が完結し、これからどうするか考えています!

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